伊豆大島の三原山は、島の人が「御神火(ごじんか)さま」と呼んできた活火山です。東京から日帰りでも届く距離にありながら、山頂に立つと足元は黒いスコリア、目の前には深さ約200mの巨大な竪穴。「歩いて火山の内側に入る」体験ができる山は、そう多くありません。
この記事は、三原山を実際に歩くためのガイドです。伊豆大島ジオパークが公式に案内している2つのトレッキングコース、山頂口までのバスの組み立て、装備と安全の考え方を、公式の一次情報だけでまとめました。島の全体像は伊豆大島の歩き方、1泊2日の行程例は伊豆大島 1泊2日モデルコースにあります。
三原山はどんな山か
伊豆大島ジオパークの解説によると、三原山は伊豆大島火山の山頂カルデラの中にできた中央火口丘(内輪山)で、高さ約150m、山頂部の直径は約800m、底面の直径は約1,200mの円錐台形をしています。1777〜78年の安永の大噴火で噴き上がったマグマのしぶきや火山弾が降り積もり、いまの姿になりました。斜面に走る黒い筋は、1950〜51年噴火と1986年噴火の溶岩流の跡です。
山頂部の大きな窪み全体が火口で、その縁が火口壁。この火口壁に沿って整備されているのが「お鉢巡りコース」です。中央南寄りには、現在直径300〜350m、深さ約200mの竪穴状の火口(火孔)があります。1986年の噴火ではここに溶岩湖ができて一度は埋まりましたが、1987年11月の爆発的な噴火で陥没し、いまの竪穴が再生しました。
火口の南西縁にある小高い峰が、伊豆大島の最高峰三原新山(標高758m)。1950〜51年噴火でできた火砕丘です。島の人々はかつて噴火の火映を「御神火」、火口を「みほら」と呼んで崇めてきました。三原山という名は、この「みぼら・みほら(御洞)」が転じたものとも言われています。
公式の2コースから選ぶ
伊豆大島ジオパークは、山頂エリアのトレッキングコースを2つ案内しています。体力と、帰りのバスをどう組むかで選ぶのがコツです。
| コース | 体力 | 目安時間 | 発着 |
|---|---|---|---|
| 【コース01】お鉢巡りコース | ★★☆ | 約2時間45分 (ガイド付きは3時間30分〜4時間) |
三原山山頂口駐車場を発着(往復) |
| 【コース02】三原山&裏砂漠フルコース | ★★★ | 約3時間30分 (ガイド付きは5〜6時間) |
三原山山頂口駐車場発 → 大島温泉ホテル駐車場着 |
コース01:お鉢巡りコース
山頂口の駐車場を出発し、外輪山展望台、江戸時代のパホイホイ溶岩(ナワナワ溶岩)、1986年噴火の溶岩流先端、マグマのしぶきがくっついた岩と見どころをたどって三原神社へ。そこから火口壁を回るお鉢巡りに入ります。公式の案内で区間の目安が示されているのは、お鉢巡りから中央火口・割れ目噴火口までが約50分、そして来た道を戻るのが約35分という2か所です。南側の火口展望所からは、火口の底を間近に見下ろせます。
公式の目安時間は約2時間45分です。区間の目安として公表されているのは上の2か所だけなので、これを足し合わせて見積もるのではなく、見どころごとに足が止まることを前提に、この目安時間で計画してください。往復コースなので行きも帰りも同じバス停を使えるのが利点です。はじめての三原山なら、まずこちらを。

コース02:三原山&裏砂漠フルコース
コース01のお鉢巡りまでを歩いたあと、来た道を戻らずに下り坂を約25分かけて裏砂漠へ降り、そこからジオ・ロックガーデン、再生の一本道、温泉ホテル駐車場露頭をたどって大島温泉ホテルへ抜けます(この区間が約40分)。全体の目安は約3時間30分。スタートとゴールが違う点に注意してください。
ゴールが温泉ホテルなので、歩き終えてそのまま風呂に入り、バスで港へ戻るという組み立てができます。ただし体力は★★★。時間に余裕がある日に選びたいコースです。
山頂口までの行き方と、帰りの組み立て
三原山山頂口へは大島バスが走っています。大島バスの公式路線図には「三原山頂口」の停留所があり、大島温泉ホテル側には「三原山温泉」の停留所が置かれています。伊豆大島ジオパークも、コース02の発着地点はいずれも路線バスが運行していると案内しています(大島バス/TEL 04992-2-1822)。山頂口には駐車場も整備されているので、レンタカーで上がることもできます。
バスを使うなら、1日乗車券が2,500円、2日乗車券が3,800円(いずれも全路線・おとな)。港と山頂口を往復し、さらに温泉や港へ移動するなら、区間ごとに払うより見通しが立ちます。また大島バスは、大型客船の早朝入港(午前6時)に合わせた接続バスを出しており、そのなかには「大島公園 経由 温泉ホテル行」も含まれます。夜行の客船で着いてそのまま山へ向かう組み方が可能というわけです。
注意したいのは、時刻表が期間ごとに改定されること。大島バスの公式サイトには期間を区切った時刻表が掲載されているので、出発前にその日のダイヤを確かめてください。船の着く港(元町港・岡田港)が当日の海況で変わる島なので、行きのバスも帰りのバスも、当日の運航状況とセットで確認してください。本土からの行き方は竹芝から伊豆諸島へにまとめています。
裏砂漠が黒いままである理由
コース02のハイライトである裏砂漠は、三原山の北東側に広がる、火山灰とスコリアに覆われたエリアです。なぜここだけ黒い大地が残るのか——伊豆大島ジオパークの解説が明快です。
伊豆大島は日最大風速10m/s以上の日が年間の3分の1に達するほど風が強い地域で、しかも南西の風がよく吹きます。そのため噴火のたびに火口の北東方向へ噴出物が厚く降り積もりました。さらに噴火していない期間も強風や雨水で地表が絶えず動くため、植物の種や芽生えが定着しにくい。だから黒い景観が長く保たれてきたのです。
1986年噴火ではスコリア層が20〜60cmほど堆積しました。それから約40年が経ち、いまは少しずつ植生の回復が進んでいます。かつてカルデラ北西部には「表砂漠」と呼ばれる砂漠地帯もありましたが、1950〜51年噴火の溶岩流に覆われて失われました。裏砂漠を含む山頂カルデラ内は富士箱根伊豆国立公園の特別保護地区で、火山監視観測車両や緊急車両を除いて車両の進入は禁止されています。歩いて入る場所だということです。

装備と、火山の島を歩くということ
気象庁と伊豆大島ジオパークは、三原山に登る人に向けて「三原山山頂遊歩道には足場の悪いところがあります。登山靴やハイキングシューズを履くようにしましょう」と案内しています。あわせて、突発的な火山現象に備えてヘルメットがあると身を守るのに有効だとし、三原山山頂口の展望避難休憩舎ではヘルメットを無料で貸し出しています。遊歩道沿いには噴石や火山灰から一時的に身を守るための退避壕が設置され、山頂の展望台も一時避難に使えます。
知っておきたい火山現象の基本も、公式に整理されています。こぶし大の噴石は火口から1km以上飛ぶことがあるため、退避壕に入るか火口の反対側の岩陰に隠れ、ヘルメットやリュックで頭を守る。火山灰はガラスのように硬い溶岩の細かな粒子なので吸い込まないようマスクや濡らしたタオルで口を覆い、目に入ってもこすらない。火山ガスは空気より重いため、溜まりやすい窪地には入らない。
肝心の現況です。気象庁の火山活動の状況によると、伊豆大島の噴火警戒レベルは1(活火山であることに留意)です(2026年8月29日確認)。ただしレベルは変わりうるものなので、出かける前に必ず気象庁の最新情報を確認してください。日陰の少ないコースなので、帽子と飲み物も忘れずに。
ガイドと歩くという選択
もう一段深く楽しみたいなら、伊豆大島ジオパーク推進委員会が認定するジオガイドに頼む手があります。溶岩の形から当時の流れ方を読むといった見方は、独学ではなかなか身につきません。
料金はガイドごとに異なり、公式のガイド紹介ページを見ると4時間コースでおおむね5,000〜8,800円/人、6時間コースで10,000〜13,200円/人という幅です。火口と裏砂漠をめぐる6時間コースを14,000円/人と設定しているガイドもあります。2名からの受付や、1名で頼む場合の割増を設けているガイドもあるので、条件は申し込み前に確認を。得意分野も火山・植物・島の暮らし・英語対応とさまざまです。申し込みは各ジオガイドへ直接行う形になっています。
ガイドと歩くと所要時間は長くなります(目安は上の表のとおり)。歩く速さが落ちるのではなく、立ち止まる回数が増えるぶん延びる、と考えるとよさそうです。
まとめ
三原山のトレッキングは、公式に整備された2つのコースから選ぶのがいちばん確実です。往復で完結するお鉢巡りか、裏砂漠まで抜けて温泉で締めるフルコースか。どちらを選んでも、火口壁の上を歩き、黒い大地を踏み、島がいまも動き続けていることを足の裏で確かめられます。
必要なのは、歩きやすい靴と、帽子と飲み物、そして出発前に火山情報を見る習慣だけ。あとは御神火さまの山が引き受けてくれます。
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参考・出典(公式サイト)
- 伊豆大島ジオパーク|おすすめモデルコース 山頂エリア
- 伊豆大島ジオパーク|伊豆大島火山に関する情報
- 伊豆大島ジオパーク|ジオサイト 三原山(三原山中央火口丘)
- 伊豆大島ジオパーク|ジオサイト 三原新山/三原山山頂中央火口
- 伊豆大島ジオパーク|ジオサイト 裏砂漠
- 伊豆大島ジオパーク|ガイドツアー(認定ジオガイド紹介)
- 大島バス|路線バス(時刻表・運賃・路線図)
- 気象庁|火山活動の状況(伊豆大島)
- 気象庁 伊豆大島火山防災連絡事務所|三原山に登る観光客のみなさまへ
- 東海汽船|当日の運航状況
※ 情報は変更される場合があります。おでかけ前に各公式サイトでご確認ください。(最終確認:2026年8月)
