八丈島の方言(八丈語)|「おじゃりやれ」はいらっしゃい。ユネスコが消滅危機に挙げた島ことば

八丈島 溶岩地帯と八丈富士

八丈島に着くと、島の人の言葉に「おじゃりやれ」という聞き慣れない一言が出てきます。意味は「いらっしゃい」。八丈島や青ヶ島で話されてきた島ことば(八丈方言・八丈語)の代表的な言葉です。この島ことばは、2009年2月にユネスコが発表した消滅の危機にある言語の一覧に、アイヌ語や沖縄の言葉とともに挙げられました。この記事では、八丈町教育委員会・文化庁・国立国語研究所の資料をもとに、八丈語がどんな言葉なのか、旅先で出会う言葉の意味、古い日本語とのつながり、そして旅行者が島ことばに触れる方法をまとめます。

八丈語とは|八丈島と青ヶ島で話される島ことば

八丈町教育委員会は、「島ことば」「八丈方言」「八丈語」を同じものとして扱い、八丈島・八丈小島(現在は無人島)・青ヶ島で使われている言葉の総称だと説明しています。同じ伊豆諸島でも、北の大島や新島の言葉とは別の区分です。教育委員会の冊子は、日本の方言の区画図で八丈島と御蔵島のあいだに引かれた線を「かなりの重要度をもつもの」とし、八丈島の言葉が周りの方言から隔てられて独自性を持っていると書いています。

八丈島の中でも、三根・大賀郷・樫立・中之郷・末吉の5つの地域ごとに言い方が少しずつ違います。たとえば「美しい」は三根では「でーじきゃ」、樫立・中之郷では「じゃーじきゃ」です。ただし教育委員会によると、文法は地域で変わりません。

2009年2月19日、ユネスコは世界で約2,500の言語が消滅の危機にあると発表しました。日本からは8つの言語・方言が入り、八丈語もその1つです。文化庁の整理では、八丈語の危険度は「危険」。同じ区分に奄美語・国頭語・沖縄語・宮古語が入り、八重山語と与那国語は「重大な危機」、アイヌ語は「極めて深刻」とされています。教育委員会の冊子は、この発表に「八丈島の人たちはビックリしました」と書いています。国立国語研究所の報告書に収められた、町の継承の取り組みについての論考は、リストに挙がった理由のひとつを「子どもが話さない」ことだったと振り返っています。

海から見た青ヶ島の三宝港と切り立った断崖
青ヶ島の三宝港。八丈方言は八丈島の南にあるこの島でも話されてきた

旅で出会う八丈ことば

八丈町教育委員会は、島ことばを学ぶ教材として「八丈方言100」や「八丈島ことば・番付表」を作っています。下の表は、その中から旅行者が出会いそうな言葉を拾ったものです。表記は教材と同じく三根の言い方で、地域によって音が変わるものがあります。

島ことば 意味 使いどころ
おじゃりやれ いらっしゃい 「島に おじゃりやれ」=島へようこそ
へいていぶり ひさしぶり 再会のあいさつ
たもうりやれ くださいませ ていねいなお願い
めーららい ごめんください(三根) 家を訪ねたとき
ほとうろわのー 暑いねー 天気のあいさつ
ひっかじもわのー 寒いねー 天気のあいさつ
でーじきゃ 美しい 「この花わ でーじきゃのー」
ぼーきゃ/ねっこきゃ 大きい/小さい 形容詞は「〜きゃ」で終わる
かむ 食べる 食事の場面
えーたば あしたば(樫立・中之郷は「やたば」) 「えーたばのてんぷらわ うんまきゃ」
ごらごら 早く、急いで 「ごらごら 仕事うやろごん」

表の用例も教材のものです。「〜きゃ」で終わる形容詞が多いことが分かります。これが次の節で触れる八丈語の文法の特徴につながります。

どこが古いのか|万葉集の東国の言葉と同じ形

八丈町教育委員会は、八丈方言の特徴を4つ挙げています。奈良・平安時代の古い言葉が多く残る単語、アクセントの区別がないこと(橋も端も箸も区別しない)、ラ行の音がダ行になること(ラジオが「ダジオ」、流人が「ヅニン」)、そして最大の特徴とされる文法です。

形容詞は「〜け」で名詞につながる

共通語の「悲しい話」は、八丈語では「悲しけ話」、「白い花」は「白け花」になります。名詞につながるときは「け」、文の終わりでは「きゃ」です。国立国語研究所の報告書に収められた講演記録では、八丈の「アカケ花」「タカケ山」と同じ形が、万葉集の「悩ましけ人妻」「かなしけ児ら」にあると紹介しています。

動詞はオ段の音で名詞につながる

「雪が降る時」は「雪が降ろ時」、「飛ぶ鳥」は「飛ぼ鳥」。動詞も名詞につながるときは形が変わります。同じ講演記録には「フロ雨」「イコ時」「ノモ酒」という例が並んでいます。

教育委員会は、万葉集に残る東国方言(当時の関東とその周りの言葉)と同じ用法が、八丈島では今もそのまま使われていると説明しています。国立国語研究所の論文も、形容詞のe連体形と動詞のo連体形を「上代東国方言の流れを受け継ぐもの」としています。奈良時代の東国の言葉の形が、海を隔てた島で日常の言葉として続いてきたことになります。

ふもとから見上げた八丈富士の全景
八丈富士。島ことばは島内の5つの地域ごとに少しずつ違う

島ことばを残す取り組み

ユネスコの発表を受けて、八丈町教育委員会は2009年度から島ことばを伝える活動を始めました。国立国語研究所の報告書と町の冊子から、主なものを並べます。

  • 八丈・島ことばかるた:2010年に手作りで制作し、2011年に小学校の全家庭へ無料で配りました。絵札は島に住む人が描いています。
  • カルタ大会:2011年度の1月に第1回を開き、その後も続いています。保育園の年長組からお年寄りまで、年代別に分かれて札を取ります。
  • 学校の授業:町の冊子(2013年11月)は、2014年度から町内すべての小・中学校で各学年年間3時間程度の島ことばの学習をカリキュラム化する方針を示していました。東京都教育庁の2023年度の研修ページでも、八丈町立学校の特色ある教育活動として「八丈方言教育」が紹介されています。
  • ショメ節百句:島の民謡「八丈ショメ節」の歌詞を百人一首の形でカルタにしたものです。

効果は数字にも出ています。教育委員会が小・中・高校生を対象に行った調査(報告書の比較表の表記では平成21年と24年)では、「おじゃりやれ」を使っていると答えた割合が21%から42%に、知っている割合が89%から93%に上がりました。報告書は、カルタに出てくる言葉ほど知られるようになった一方、カルタにない言葉は伸びが小さかったとも書いています。

2024年12月7日・8日には、文化庁と八丈町教育委員会が窓口となった「令和6年度 危機的な状況にある言語・方言サミット 八丈島大会」が、八丈町多目的ホール「おじゃれ」で開かれました。消滅の危機にある言語・方言をもつ各地域の話者や研究者が島に集まっています。

曇り空の下、黒い砂浜と護岸のむこうで白波が砕ける八丈島の海岸
八丈島の黒い砂浜の海岸

旅行者が島ことばに触れる方法

出発前に、町の公式サイトで聞いておく

八丈町の公式サイトには「八丈方言で語る島の民話」のページがあり、三根・大賀郷・樫立・中之郷・末吉の語り部が「桃太郎」「欠け皿」「人捨て穴」「たなばたさま」の4つの民話を島ことばで語る動画が並んでいます。どの動画も共通語の字幕と島ことばの字幕を選べるので、地域ごとの違いを聞き比べられます。「島言葉(八丈方言)を見直そう」のページでは、教育委員会が資料として保管していた八丈方言の古い音声と、冊子「島ことばを話そう伝えよう!」が公開されています。

YouTubeには、1959年に大賀郷で録音されたとされる会話の音声も上がっています。話し手は1885年と1890年生まれの男女で、投稿者は概要欄で「自力で聞き取ったので所々よく理解できません」と書いています。自動の文字起こしにかけてみても、拾えたのは「おかげさまで」のような共通語に近い言葉くらいで、多くは意味のつながらない文字列になりました。共通語に慣れた耳では、すぐには聞き取りにくい言葉です。

島では、八丈島歴史民俗資料館へ

八丈島歴史民俗資料館は、耐震性の問題で2018年(平成30年)から閉館していましたが、2025年10月1日にリニューアルオープンしました。八丈島観光協会によると、場所は大賀郷1186(底土港から車で約9分)、開館は9:00〜16:30で年中無休、入館料は一般500円です。閉館前の2013年に出た町の冊子は、島の玉石垣や石場様(いしばさま)をこの資料館に移して展示していると紹介しています。リニューアル後の展示内容は、観光協会のページで確かめてから出かけてください。島の暮らしに関わる展示を見ておくと、言葉の背景がつかみやすくなります。

民宿や商店で「おじゃりやれ」と声をかけられたら、それが島の歓迎のあいさつです。

まとめ

  • 八丈語(八丈方言・島ことば)は、八丈島・八丈小島・青ヶ島で使われてきた言葉の総称。島内の5地域で言い方が少しずつ違う
  • 2009年2月、ユネスコの消滅危機言語に日本の8言語の1つとして挙げられた。文化庁の整理では危険度は「危険」
  • 「おじゃりやれ」=いらっしゃい、「へいていぶり」=ひさしぶり、「たもうりやれ」=くださいませ
  • 形容詞の「〜け」、動詞のオ段の形は、万葉集の東国の言葉と同じ形とされる
  • 町はカルタやカルタ大会で継承を続け、平成21年と24年の調査の比較で「おじゃりやれ」を使う子どもは21%から42%に増えた
  • 出発前は町公式の民話動画と音声、島では2025年10月に再開した八丈島歴史民俗資料館へ

参考・出典(公式サイト)

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※ 情報は変更される場合があります。おでかけ前に各公式サイトでご確認ください。(最終確認:2026年10月)

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