青ヶ島の地熱釜とひんぎゃの塩、青酎|「地面の熱」で食べる島の歩き方

青ヶ島 池之沢の地熱窯。ふたの並ぶ調理台と村の案内表示

東京の南358km、八丈島から68kmの洋上に浮かぶ青ヶ島。面積5.96km²のこの島には、コンビニも大型店もありません。それなのに、この島の食の話は伊豆諸島でいちばん濃い。理由は地面から噴き出す蒸気「ひんぎゃ」にあります。島の人はこの熱で野菜を蒸し、海水を煮詰めて塩をつくり、焼酎を醸してきました。この記事では、青ヶ島村の公式情報と現地の記録をもとに、地熱釜・ひんぎゃの塩・青酎という「地面の熱で食べる」3つの主役を整理します。

「ひんぎゃ」とは何か ― 火の際(ヒノキワ)が語源

青ヶ島村の公式サイトは、「ひんぎゃ」は火の際(ヒノキワ)が語源だと説明しています。外輪山の内側にある池之沢地区では、島言葉で「ひんぎゃ」と呼ばれる水蒸気の噴出する穴が無数に見られ、電気がない時代には暖房や調理にひんぎゃを利用していた、とのことです。

東京諸島の観光団体が公開している現地インタビューの記録では、島の人が「ひんぎゃとは青ヶ島の地熱蒸気の噴気孔のこと、あるいは蒸気そのものも総称してひんぎゃと呼ぶ」と説明したうえで、現在はもっぱらふれあいサウナで温まったり、食べ物を釜で蒸したりという形で使われている、と語っています。同じ話し手は、ひんぎゃは生まれたときから当たり前にあって、小学校に入ったら遠足で来る場所だったとも述べています。観光名所である前に、まず生活の設備なのです。

地熱釜 ― ラップをするか、しないかで仕上がりが変わる

村の公式サイトによれば、地熱釜はふれあいサウナのほど近くにあり、卵、じゃがいも、さつまいも、くさや、プリン、赤飯まで、何でもふかせる天然の釜です。蒸し上げた食材を持って、島の自然のなかでピクニックを――というのが村の勧める楽しみ方です。

金網のかごに入れられたさつまいも・じゃがいも・ラップで包んだ食材
金網のかごに並ぶさつまいも、じゃがいも、そしてラップで包んだ食材。同じ釜でも、包むか包まないかで仕上がりが変わる

現地で撮られた検証動画には、旅行者には見えにくいコツが記録されています。同じ時間でじゃがいもを「かごに直接入れる」場合と「ラップで包んで入れる」場合を比べたところ、直接入れたほうがはるかにホクホクに仕上がったというものです。話し手は理由を「水蒸気は直接当たったほうがおいしい」と説明し、かごのいちばん下に直接入れるのが一番いいと結論づけています。同じ動画では釜は場所によって温度が違うことにも触れており、どの穴を使うかで結果が変わることがうかがえます。上の写真に包んだ食材と裸の食材が同居しているのは、まさにこの選択の現場です。

もうひとつ、現地の案内表示から分かる実務があります。地熱釜のそばに立つ村の表示板には「汚れたら洗ってください」「流しはサウナ入口にあります」と書かれています(本記事のアイキャッチ写真で確認できます)。つまり後片付けまでが利用者の仕事で、そのための流しはサウナの入口にある、という設計です。ここが次の項目に直結します。

【重要】ふれあいサウナは当面休業中(2026年8月時点)

青ヶ島村の公式サイト「見どころ・遊びどころ」には、ふれあいサウナについて「台風22号及び23号による損傷が大きく、安全が確保できないため、当面の間、休業します」と掲載されています(2026年8月31日に確認)。同じページでは、島の総鎮守である大里神社も同じ台風の影響で立入禁止と案内されています。

地熱釜そのものについて休業の記載は見当たりません。ただし前述のとおり、洗い場(流し)はサウナ入口にあるとされているため、サウナ休業中に地熱釜が通常どおり使えるかどうかは現地の状況次第です。訪島前に青ヶ島村役場(04996-9-0111)へ確認するのが確実です。

項目 村公式の記載
現在の状況 台風22号・23号による損傷のため当面の間 休業(2026年8月31日確認)
施設の性格 池之沢地区に噴出している「地熱」を利用した天然サウナ。観光客はもちろん、村民のふれあいの場
サウナ室の温度 約60度。自然の熱のため、日によって温度・湿度が多少異なる
営業時間(通常時) 平日 16時〜20時(入館は19時まで)/土・日・祝日のみ 14時〜20時(入館は19時まで)
定休日(通常時) 毎週水曜日
連絡先 04996-9-0203(※営業時間のみ)
出典:青ヶ島村ホームページ「見どころ・遊びどころ」および「施設紹介」。再開時期は公表されていないため、最新情報は村公式でご確認ください

ひんぎゃの塩 ― 地熱だけで海水を煮詰める

青ヶ島を代表する特産品が「ひんぎゃの塩」です。村の特産品ページは、黒潮本流から汲みだした海水を、地熱のみを利用して、じっくり時間をかけて生成していると説明しています。火を焚くのではなく、島が出している熱だけで水分を飛ばすということです。製造は(株)青ヶ島製塩事業所(04996-9-0241)。

この塩は島のほかの特産品にも広く使われています。たとえば「とびくん」は、青ヶ島で獲れたとびうおをひんぎゃの塩で味付けした薫製で、袋を開けてそのままちぎって食べられる、と村は紹介しています。塩そのものを買って帰るのもいいですが、「ひんぎゃの塩が使われた側」を選ぶと、島の食のつながりが見えてきます。

青酎(あおちゅう)― 定番銘柄は、杜氏の数だけ味が違う

村の説明によれば、「あおちゅう」はほとんどの工程を人の手でひとつひとつ行っている、青ヶ島で昔から造られてきた焼酎です。そして最も印象的なのがその成り立ちで、元々は妻が夫のために作る家庭のお酒だったとされています。

だからこそ、青酎には決まった味がありません。村はこう書いています――それぞれの杜氏がそれぞれの造り方、分量で造っているため、すべて味が異なる。そのため大量生産はできず、それが「幻」と言われる理由の1つ。定番の「あおちゅう」については、創業時からのラベルを使っているのは現在6名で、麦麹の造り方や分量、仕込みの時期の違いから杜氏によって味が異なる、と説明されています。つまり定番の「あおちゅう」は、銘柄ではなく杜氏で選ぶお酒だということです。一方で「青宝」「伝承」「池の沢」などの銘柄は、原料をどこまで島内産でそろえるか、丼仕込か二段仕込か、何年寝かせたか、といった造りの違いで性格が分かれます。いずれの銘柄にも造り手(杜氏)の名前が明記されているのが青酎の特徴です。

銘柄 原料・麹/製法・度数 杜氏と特徴(村公式より)
あおちゅう さつまいも・麦麹(島内外)/自然麹
丼仕込・30度
杜氏=奥山直子/佐々木宏/ビジネス宿中里/広江順子/広江秀一/広江マツ。創業時からのラベルを使う杜氏は現在6名で、杜氏ごとに味が異なる
あおちゅう 青宝 さつまいも・麦麹(島内外)/自然麹
二段仕込・30度
杜氏=菊池松太郎。麦に自然(黒)麹菌を使用。名は「青宝トンネル」に由来
青酎伝承 さつまいも・麦麹(すべて島内産)/自然麹(黒麹)
丼仕込・30度
杜氏=浅沼寿。原材料・麹菌まですべて青ヶ島産。極めて少ない
青酎伝承 喜久一 さつまいも・麦麹(すべて島内産)/自然麹(黒麹)
丼仕込・30度
杜氏=奥山ミチ代。元の造り手の志を受け継いだ家族が名付けた
青酎 池の沢 さつまいも・麦・麦麹(島内外)/白麹
二段仕込・30度
杜氏=荒井清。芋と麦を別々に蒸留してブレンド。酸度が低く飲みやすい。製造量が一番多い
青酎 麦 35度 麦・麦麹(島外)/白麹
二段仕込・35度
杜氏=荒井清。「古酒」表記はないが35度は7年熟成
青酎 麦 25度 麦・麦麹(島外)/白麹
二段仕込・25度
杜氏=荒井清。加水した25度は3年熟成
恋ヶ奥 麦・麦麹(島外)/自然麹
二段仕込・30度
杜氏=広江順子。青ヶ島の気候風土が育てた自然麹による麦焼酎
出典:青ヶ島村ホームページ「特産品のご紹介」。問い合わせは青ヶ島酒造合資会社(04996-9-0332)。※20歳未満の飲酒は法律で禁止されています

表にある「丼仕込」と「二段仕込」の違いも村が注記しています。丼仕込製法は麹と芋を同時に投入してもろみを取る方法、二段仕込製法は麹だけで造った一次もろみに芋を投入して二次もろみを取る方法で、こちらが主流になってきている、とのこと。同じ島の焼酎でも、昔ながらの丼仕込を守るものと、二段仕込のものが並んでいるわけです。

青ヶ島の青宝トンネルの坑口と、扁額に記された「青宝トンネル」の文字
銘柄「青宝」の名の由来になった青宝トンネル。外輪山を貫いて三宝港へつながる、島の生命線

銘柄「青宝」の名の由来について、村はこう書いています。外輪山を貫き、海の玄関口である三宝港へつながる「青宝トンネル」があり、それはまさに島の生命線であり、宝だから――。焼酎の名前が、島の道路の名前から来ている。青ヶ島では、酒も塩も食も、地形と切り離せません。

島の味に会いに行く前に ― 港と、買い物の話

青ヶ島の食を味わうには、まず島に着かなければなりません。ここが最大の関門です。村の公式アクセスページは、八丈島と青ヶ島を結ぶ連絡船について「天候不良等による欠航もあり、就航率は50〜60%」、「その日の運航は当日の朝7時に決定されます」と明記しています。案内ダイヤルは04996-9-0033。運賃は燃料油価格変動調整金の設定により毎月変動するため、公式で都度確認が必要です。

断崖に囲まれた青ヶ島(三宝)港と、岸壁に据えられたクレーン
断崖の下に開かれた青ヶ島(三宝)港。漁船の船着き場が陸にあるため、出航のたびに備え付けの大きなクレーンで漁船を吊り上げる

その玄関口である青ヶ島(三宝)港について、村は特徴的な説明をしています。国内で最後まではしけ作業が行われていた港であり、漁船の船着き場が陸にあるため、出航のたびに備え付けの大きなクレーンで漁船を吊り上げる。冬には間近にクジラが見えることもある、とのことです。写真のクレーンは、その作業のためのものです。

空路のヘリコプター「東京愛らんどシャトル」は365日運航、乗客定員9名、八丈島-青ヶ島間 約20分。運賃は東邦航空の公表で片道 大人11,750円/小人8,230円です。予約は搭乗1か月前の同一日から(日曜を除く・受付9:00〜16:00・予約センター04996-2-5222)。手荷物は5kgを超えると1kgごとに超過料金(八丈島-青ヶ島区間は1kgあたり240円)がかかり、搭乗手続きは出発の30分前締め切り。そして見落としやすい注意として、村は「船からの乗り継ぎはできません」と明記しています。

買い物についても先回りが要ります。島に大型店やコンビニはないため、地熱釜で蒸したい食材は八丈島までに用意しておくのが現実的です。じゃがいも、さつまいも、卵――村が名前を挙げている定番を持ち込めば、それだけで青ヶ島らしい食卓になります。

まとめ

青ヶ島の食は、どれも「地面の熱」という同じ一点につながっています。ひんぎゃで蒸す地熱釜、地熱だけで海水を煮詰めるひんぎゃの塩、そして定番銘柄は杜氏の数だけ味が変わる青酎。地熱釜ではラップで包まず、かごの下に直接置くのが現地で語られるコツで、釜は場所によって温度が違います。ただし2026年8月時点でふれあいサウナは台風被害により当面休業中。洗い場がサウナ入口にある以上、地熱釜を目当てにするなら村役場への事前確認を旅程に入れてください。就航率50〜60%の島です。着けたその日を、ちゃんと味わえるように準備していきましょう。

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参考・出典(公式サイト)

※ 情報は変更される場合があります。おでかけ前に各公式サイトでご確認ください。(最終確認:2026年8月)

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