利島の椿と宮塚山|島の80%を覆う椿林と、山頂に展望がない山の歩き方

港の「ようこそ利島へ」の看板と、円錐形の宮塚山

東京から南へ約140km、周囲約8km・面積4.04km²。伊豆諸島の利島(としま)は、砂浜を持たず断崖に囲まれた小さな島です。この島を語るとき、必ず出てくるのが椿と、島の中央にそびえる円錐形の宮塚山。ただし、この2つは「花を見て、山に登る」という言葉から想像するものとは、少し違う顔をしています。椿は観賞用の庭ではなく島を守る林であり、宮塚山は山頂に展望がない山です。この記事では、利島村の公式情報をもとに、その2つの実際の姿と歩き方を整理しました。

島の面積の80%が椿 ― 見に行くのは「花」ではなく「林」

利島村の公式サイトは、島全体が椿林に覆われ、その本数を約20万本と説明しています。さらに山を紹介するページでは、ヤブツバキが島の面積の80%にあたり、強い季節風が吹く冬の利島を守ってきたと書かれています。ここが利島の椿を理解する入口です。椿は「眺めるために植えられたもの」ではなく、風から島を守り、島の暮らしを支えるために増やされてきた林なのです。

その背景も村が明かしています。面積が小さく水資源も乏しい利島は稲作をはじめ農業に向かず、米で年貢を納めることができませんでした。試行錯誤の末にたどり着いたのが椿栽培による椿油の生産で、江戸時代以前から今日まで椿油をつくり続けてきた、と説明されています。村はこれを「時代を超えて築かれた、世界でも類例のない貴重な文化遺産」と表現しています。

島を歩くと、椿林が段々畑になっていることに気づきます。これも景観のための造形ではありません。村の説明によれば、椿の実が雨などで流れ落ちないように工夫した先人の知恵です。斜面に段をつくって実を受け止める――そう知って見ると、林の形そのものが島の産業史に見えてきます。

椿農家の1年 ― 花を見る季節と、実を拾う季節

村の説明によると、ヤブツバキは晩秋から初春に花を咲かせ、初夏から秋にかけて油を十分に含んだ実(種)になります。利島では完熟して落ちた実を拾うため、実が大きく育つ夏のあいだに下草を刈り、きれいな林床をつくります。椿の実は小さく色も茶色いため、雑草が生えていると拾うときに大きな手間になります。真夏の重労働でも惜しまず作業をする、と村は書いています。

秋に入って林床に落ちた実を、農家がひとつひとつ拾い上げる作業は冬の終わる3月末頃まで続きます。集めた実は自宅の軒先などで乾燥させたのち、島内にある椿油製油センターへ持ち込まれます。利島の椿油はヤブツバキの種を100%使い、実の収穫から搾油、商品の梱包まですべて島内で行われる――村の言葉を借りれば「メイド・イン利島」の特産品です。島の基幹産業にまで発展した椿産業は、全国でも有数の椿油生産量を誇る、と公式に記されています。

赤い花をつけた椿と、厚く光沢のある葉
赤い花と、厚く光沢のある葉。花は晩秋から初春にかけて咲き、初夏から秋にかけて油を含んだ実になる

つまり利島では、「花の季節」と「実の季節」がきれいに半年ずれているということです。冬に行けば花に囲まれ、夏に行けば下草を刈る林と、秋から春にかけては実を拾う人の姿がある。村が「日本らしい四季を感じづらい一方で、椿で四季を感じることができる」と書くのは、この一年の回り方を指しています。

なお椿油そのものは、髪や肌の手入れに使われてきたほか、近年は食用も増えていると村は説明しています。江戸時代には上等な食用油として江戸の町民にも親しまれたとされ、オリーブオイルよりあっさりした風味で、ドレッシングのベースやパスタにも使える、というのが公式の紹介です。購入について村は利島農業協同組合のサイトを案内しています。

山に入る仕事 ― 草を刈り、実を拾う

この一年が実際にどんな作業なのかは、利島で椿農家の仕事を体験した人が公開している記録動画から具体的に見えてきます。それによると、椿農家は島のあちこちに自分の山(土地)を持ち、4月から9月にかけて草を刈り、9月から3月にかけて地面に落ちた椿の実をひとつずつ手作業で拾うという一年を送ります。実を拾う時期は、村公式が書く「秋から3月末頃まで」とほぼ重なります。一方で草刈りは、公式が「実が大きく育つ夏のあいだ」とする時期より早い春先から始まっているのが現場の実感のようです。

道具は草刈り機とブロワー。刈った草が飛んでくるので、顔を守るシールドを着けて作業します。刈った草は放置せず集めますが、椿の木の根が傷む原因になるため、木の根元ではなく中央に寄せるとのこと。集めた草は燃やしたり、実を拾いやすいように土手にしたりするそうです。「山は広いですし、草刈りも刈った草を集める作業も、結構な重労働です」という言葉が、真夏の下草刈りの実感を伝えています。

そのなかで印象的なのが、草を刈るときに、7月の初めに咲くサクユリを刈らないよう注意しながら作業したというくだりです。後述する世界最大のユリは、観光資源として保護されているというより、産業の作業のなかで意識的に残されている――椿林と島の自然が同じ手のなかにあることが、この一言によく表れています。

同じ記録では、島の運転について「坂道や狭い道が多く、都内の運転とは違う難しさがある」とも語られています。宿の車を借りて動くつもりなら、頭に入れておきたい感覚です。

宮塚山 ― 山頂ではなく「一段下の展望台」が目的地

宮塚山は標高508m。円錐形の美しいピラミッド型をしていて、昔から海上をゆく人々の目印になってきた、と村は説明しています。海から島に近づくとき、まず目に入るのがこの山です。

登山について村が書いていることのうち、事前に知っておくと計画が変わるのは次の点です。

  • 山頂からは展望を望むことができない。見晴らしが利くのは、山頂から一段下がった北側に設置された展望台で、天気の良い日にはここから大島や伊豆半島、富士山まで見える
  • 登山道の入口は山の中腹にいくつかある
  • 登山道はあまり人が通らないため、草が生い茂っているところもある
  • 途中で苔の生えた巨木に出会う
  • 登山道では滅多に人に会わないため、静かな山歩きができる

「山頂に立ったのに海が見えない」と落胆しないために、目的地は山頂ではなく北側の展望台だと最初から決めておくのが、この山の歩き方です。村は標高508mの宮塚山を「誰でも気軽に登頂することのできる山」と紹介していますが、利島には登山ガイドがいません。登山に関する質問は、村のホームページの問い合わせか、利島村役場 産業観光課へ相談するよう案内されています。所要時間について村の公式ページに記載は見当たらないため、宿や産業観光課に確認して計画するのが確実です。

安心材料もあります。村は、内陸の里山と大きく異なる点としてシカやサル、イノシシなどの獣類やマムシなどの毒蛇がいないことを挙げ、だからこそ安心して静かな山歩きができるのが利島の特徴だと説明しています。

山で出会う植物と鳥

島の80%が常緑のヤブツバキに覆われているため、一年を通じて青々とした景色が続きます。島の南側へ行くと、巨木が織りなす椿林とは少し違う利島の原生林を見ることができる、と村は書いています。

梅雨の時期には、世界最大のユリといわれるサクユリが島の各地で大輪の花を咲かせます。サクユリはカサブランカの交配親のひとつで、大きいものは草丈2m以上、花径30cmまで育つとのこと。椿の咲く時期にはメジロが島中を飛び回り、また樹上から飛び降りたりしなければ飛び立てないオオミズナギドリが生息し、世界でも有数の繁殖地になっている、と村は説明しています。

いつ行くか ― 「花の見頃」と「船が着くか」は別問題

利島の旅がほかの島と決定的に違うのは、いちばん見たいものの季節と、いちばん島に着きにくい季節が重なっていることです。村の来島Q&Aは、おすすめの時期についてこう案内しています。1〜2月は島の至るところで咲き誇る椿を見ることができるが、時期的に欠航率が高いので、必ずヘリの予約をして来てほしい――村が名指しでヘリの予約を勧めているのは、この時期だけです。

船の欠航については、村は「船舶会社で基準を設けているが、海の状況はたった10分でも変わってしまうこともあり、タイミング悪く欠航になることもまれにある。晴天でも海の状況が良いとは限らない」と説明しています。空が晴れていても、船が着けるとは限らないという前提で日程を組むのが利島の鉄則です。

時期 島で見られるもの(村公式の案内) 海の状況の目安
1〜2月 島の至るところで咲き誇る椿 欠航率が高い。村は「必ずヘリの予約を」と案内
3〜5月 ドルフィンスイムの期間に入る(3〜11月) —
6月中旬〜7月上旬 サクユリ(世界最大のユリといわれる伊豆諸島の固有種) 6〜9月末は比較的海が安定(台風を除く)
7月中旬〜8月下旬 人工海浜「カケンマ浜」で泳げる 同上
出典:利島村ホームページ「来島Q&A」。時期は変更される場合があるため、計画時に公式で最新をご確認ください

行き方と、島での動き方【運賃・時刻の目安】

利島へは海路と空路の2通り。村の来島Q&Aと東海汽船・東邦航空の公式運賃表から、目安を整理します。時刻は年・季節により変動し、高速船は冬季運休の設定があります。

手段 時刻の目安(村公式) 運賃の目安(片道・大人)
大型客船 さるびあ丸
(4〜7月中旬、10〜3月)
東京竹芝 22:00 → 利島港 7:35 2等 9,160円/特2等 13,730円/1等 18,310円/特1等 21,970円/特等 25,630円
大型客船 さるびあ丸
(7月中旬〜9月)
東京竹芝 23:00 → 利島港 6:35 同上
高速ジェット船
(季節により変動・冬季運休有)
東京竹芝 7:30 → 利島港 9:55 13,860円
客船フェリー あぜりあ(下田発) 下田港 9:20 → 利島港 11:14 2等 5,530円
大島から船で(ジェット船/大型客船) — ジェット船 2,500円/2等 1,230円
東京愛らんどシャトル(ヘリ) 大島空港 11:50 → 利島ヘリポート 12:00
利島ヘリポート 12:05 → 大島空港 12:15
大島-利島 7,370円(小人 5,160円)
出典:利島村「来島Q&A」(時刻)、東海汽船「運賃表」、東邦航空 東京愛らんどシャトル「運賃・料金」。運賃・時刻は変動するため、予約時に各公式で必ずご確認ください

ヘリは東邦航空の予約センター(04996-2-5222/9:00〜16:00・日曜休業)で扱っています。手荷物は5kgを超える場合に1kgごとに超過料金がかかり、大島-利島区間は1kgあたり140円と公表されています。

斜面に建つ利島の集落と、海の向こうに見える島影
斜面に寄り添う利島の集落。島の北側の緩やかな斜面に、集落はひとつだけある

島に着いてからの足も、先に知っておくべきポイントです。村はバスやタクシーなどの二次交通やレンタサイクルはないと明記しています。民宿が車の貸し出しを行っているので、宿泊先に確認するのが基本です。もっとも、周囲約8kmの島なので、大人が歩いて1周しても2時間から2時間半程度とされています。歩くこと自体が島の過ごし方になる規模だということです。

持ち物と、島の暮らしに関わる注意点

村の来島Q&Aから、旅行者が事前に押さえておきたい実務を抜き出します。

  • 薬局はなく、診療所が1軒のみ。日頃使っている薬は必ず持参する。健康保険証も忘れずに(無いと対応に時間がかかる場合があるとされています)
  • ATMは郵便局(ゆうちょ銀行)に1台。令和3年12月よりキャッシュレスの導入が進み、一部の商店・小売店・民宿でクレジットカードや電子マネーが使えるようになったものの、使えない店舗もある。東海汽船 利島営業所ではカード・電子マネーが使える
  • 気候は、夏の最高気温32〜33℃で猛暑日は滅多にない。冬は10℃を切ることも多いが、都心のような底冷えはなく雪は滅多に降らない
  • 観光の相談窓口は利島村役場 産業観光課(利島勤労福祉会館 内・電話 04992-9-0046/開館9:00〜18:00・月曜休館)

山を歩くなら、草の茂った登山道を想定した長袖・長ズボンと歩きやすい靴、水分は最低限の装備です。ガイドがいない島なので、行き先と下山予定を宿に伝えておくと安心感が違います。

まとめ

利島の椿は、観賞のための庭ではなく島の面積の80%を占め、冬の季節風から島を守ってきた林です。段々畑の形も、夏の下草刈りも、3月末まで続く実拾いも、すべて油をしぼるための仕事の跡。そして宮塚山は、山頂ではなく一段下の北側の展望台が目的地になる山です。花がいちばん美しい1〜2月は、村自身が「欠航率が高いので必ずヘリの予約を」と書く季節でもあります。予備日を持ち、船とヘリの両方を視野に入れる――その一手間さえかければ、人にほとんど会わない静かな椿の島が待っています。

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参考・出典(公式サイト)

※ 情報は変更される場合があります。おでかけ前に各公式サイトでご確認ください。(最終確認:2026年8月)

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